札幌高等裁判所 昭和57年(ネ)345号 判決 1986年3月31日
控訴人(第一審原告)
栗林リース株式会社
右代表者代表取締役
栗林徳光
右訴訟代理人弁護士
中村仁
被控訴人(第一審被告)
武藤建設株式会社
右代表者代表取締役
武藤秀生
右訴訟代理人弁護士
牧口準市
右訴訟復代理人弁護士
善方正己
山崎博
主文
原判決を取消す。
被控訴人は控訴人に対し、金三九五五万一七八〇円及びこれに対する昭和五五年二月一日から完済まで年一八・二五パーセントの割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
一 申立
(控訴人)
主文一ないし三項と同旨。
仮執行宣言。
(被控訴人)
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
二 主張
当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
1 (控訴人)
(被控訴人の一部免除と期限の猶予の抗弁に対する当審における新たな主張)
(一) 会社整理計画案に対する同意の効力が保証債務に及びその消長を来たすのは、債権者において保証人に対して、保証債務の全部または一部を免除若しくは放棄する旨の特段の意思表示をした場合に限られると解すべきである。しかるところ、本件において、控訴人は被控訴人に対し右の如き特段の意思表示をしていない。
(二) 仮にそうでないとしても会社整理計画案に対する同意は、整理会社が整理契約上の債務を履行することを条件とする私法上の条件付免除契約であると解すべきところ
(1) (契約解除)
訴外会社は、本件整理契約において支払約束をした五〇パーセントの残元本債務についての一〇回均等年賦の第一回支払期日である昭和五七年一〇月末日に支払うべき割賦金の支払を怠つた。そして、当時既に訴外会社は本件整理契約で約束した割賦金の支払能力に欠けていることが明らかであつたので控訴人は訴外会社に対し、昭和五八年三月一〇日到達の内容証明郵便で本件整理契約を解除する旨の意思表示をした。よつて、本件整理契約は右解除により効力を失つた。
(2) (和議移行)
仮に右契約解除の効力が認められないとしても、訴外会社はその後本件整理契約を実行することができないとして、函館地方裁判所に対し和議手続への移行を求め、同裁判所は昭和五八年三月二八日右和議申立を認可する旨の決定をなし同六〇年五月一六日右事件につき和議認可決定をした。これにより本件整理契約の条件が成就しないこととなり、本件整理契約はその効力を失つた。
2 (被控訴人)
(一) 控訴人の右主張(二)の(1)のうち、訴外会社が第一回支払期日の弁済をしなかつたことは不知。控訴人から訴外会社に対し、その主張日時に本件整理契約を解除する旨の意思表示のあつたことは認める。ただし、その効力は争う。
(二) 控訴人の右主張(二)の(2)の和議手続に関する事実は認める。ただし、本件整理契約が効力を失つたとする点は争う。
三 証拠関係<省略>
理由
一請求原因及び被控訴人の抗弁1、2に対する当裁判所の判断は、左に付加、訂正するほか原判決四枚目裏三行日冒頭から七枚目表四行目中段「理由がある。」までに判示しているところと同一であるから、これをここに引用する。
1 原判決五枚目裏四行目冒頭から一〇行目末尾までを削除する。
2 原判決六枚目表三行目に「支払えば」とあるを「支払い」と訂正する。
3 原判決六枚目表五行目冒頭から九行目末尾までを削除する。
4 原判決六枚目裏一〇行目に「多数決によつて」とあるを「多数決、或いは、債権者の意思によることなく」と訂正する。
5 原判決六枚目裏一二行目から一三行目にかけて「債権者の任意に委ねられている」とあるを「個々の債権者の自由意思に委ねられ、かつ、債権者が保証人に対する権利を保留したいのであれば、会社整理計画案に同意するに際し、債権者、債務者、保証人の間で協議のうえ、その旨の確認をとることも可能となつている」と改める。
6 原判決七枚目表一行目に「本件整理契約が存続している以上」とあるを「本件整理契約が存続している間は」と訂正する。
7 原判決七枚目表一行目から二行目にかけて「(存続しなくなつたとの主張、立証はない。)」を削除する。
8 原判決七枚目表四行目に「結局」とあるを「一応」と訂正する。
二控訴人の当審における新たな主張に対する判断
1 控訴人は、会社整理計画案に対する同意の効力が保証債務に影響を及ぼすのは、債権者において保証債務を免除若しくは放棄する旨の特段の意思表示をした場合に限らるべきであると主張する。しかし、会社整理計画案に対する債権者の同意は、個々の債権者ごとに別個になされ、しかも、同意するか否か、或いは、同意に際して保証人に対する権利を留保するか否か等は全て当事者の自由意思に委ねられていることは前判示のとおりであり、この債権者の会社整理計画案に対する同意によつて成立した契約は、一種の裁判外の私法上の和解契約とみるべきであるから、その要件及び効果は民法上の一般原則に服するものと解すべきである。そして、この会社整理手続に保証債務の付従性についての例外規定である破産法三二六条二項、和議法五七条、会社更生法二四〇条二項等の規定を準用し得ないことは前判示のとおりであるから、会社整理計画案の内容に保証付債務の免除等があり、債権者においてその免除等の効力が保証債務に及ぶことを欲しない場合には、当事者間において、この主債務の免除等の部分については付従性によつて消滅しない別個の債務とする旨の確約をするなど、特段の意思表示をすることを要し、これなくして会社整理計画案に同意した場合は、民法の一般原則に従い、保証人の債務もその付従性により免除等された主債務の限度まで減免されるものと解すべきものである(最判昭和四六年一〇月二六日民集二五巻七号一〇一九頁参照)。従つて、控訴人のこの点の主張は採用できない。
2 控訴人の整理契約解除の主張に対する判断は一先ず措き、和議移行の主張について判断する。
訴外会社が、本件整理計画を実行することができないとして函館地方裁判所に対し、和議手続への移行を求め、同裁判所が昭和五八年三月二八日右和議申立を認可する旨の決定をし、昭和六〇年五月一六日右事件につき和議認可の決定をしていることは当事者間に争いがない。
会社整理計画案に対する債権者の同意は、その趣旨からいつて右整理計画案がそのとおり実行されることを条件としてなされているものと認められるし、また、会社整理計画案に同意した債権者としからざる債権者との公平を計る必要性からいつても、整理会社と債権者等との整理契約は、整理実行が失敗に終わり、商法四〇一条、四〇二条により和議手続、破産手続に移行した場合は、すべて当然にその効力を失うものと解するのが相当である。
整理契約においてなされた主債務に対する免除、放棄等が右のとおり条件付であるとすると、右免除放棄に基づき付従性によつて減縮していた保証債務も当然条件付で減縮していたものとみるべきであるから、整理契約が失効したことにより保証債務も当然整理契約締結以前の主債務の範囲に復するものと解すべきである。従つて、控訴人の本件会社整理手続が和議手続に移行したことにより本件整理契約が失効し、被控訴人は整理契約締結以前の主債務の範囲の履行責任を負うに至つたとする主張は理由がある。
三以上によると、被控訴人に対して、保証債務の履行として本件売買残代金三九五五万一七八〇円とこれに対する遅滞の日の翌日である昭和五五年二月一日から完済まで年一八・二五パーセントの割合による約定遅延損害金を支払うべき義務あるものというべく、控訴人の本訴請求は全て理由がある。
よつて、本件控訴は理由があり、右請求を棄却した原判決は不当であるから、これを取消し、右請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官舟本信光 裁判官長濱忠次 裁判官吉本俊雄)